妖怪・怪異・八百万の神々

アメリカの湿地帯の噂

アメリカに留学していた時分、現地で出来た友人に、色々な場所へ遊びに連れて行ってもらったそうだ。
ある山間に広がる湿地帯に行った時、おかしな注意をしつこくされたという。
「こっちから向こう、特に奥の山へは、絶対に近寄るんじゃないぞ」
目をやれば、特に木が密集しているわけでもなく、見通しも良くて迷いそうもない。
底無し沼でもあるのかと尋ねると、とても奇妙な答えが返ってきた。




「いや、ここの山間には半魚人が出るんだよ。目撃談によると、随分とズングリとした体型らしいが。別に人を襲ったりはせず、逆に人を見ると湿地の奥へ逃げていくらしいんだけど、こいつにうっかり触っちまうと、強烈な悪臭が付くっていうんだ。
この臭いが洗っても取れないらしくて、それどころか、しばらくすると身体中から同じような悪臭が出るようになるんだとさ」真剣な顔で続けて言う。
「まるで魚が腐ったような臭いで、他人どころか家族も耐えられず避けるようになる。その内、自分でも我慢できなくなって、大抵の者が自殺しちまうんだと。お前が臭くなったら、友人で居続けるのも大変だからな」
二人の友情のため、彼は湿地帯の奥へは絶対に近寄らなかったそうだ。