妖怪・怪異・八百万の神々

『イボの花』の都市伝説

母方の伯父が昔してくれた話なんだけど。
イボの花ってのがあるらしい。体に出来たイボにこう、花が咲くみたいにパカって裂け目ができることを言うそうだ。昔は、急にできたイボに花が咲いたら、近くの人間に不幸があると言われていたらしい。聞いたことがないから、叔父のいた所独特の風説かもしれないけど。

で、伯父が小学校の頃、右手の二の腕に急に大きなイボが出来た。そして、すぐにそれが真ん中から十文字に割れた。それを見て彼の祖母が『イボの花』の話をしたところ、伯父はバカらしいと鼻で笑ってたんだって。

その3日後。祖母が心不全で死んだ。伯父は驚いて両親に話したが、もちろん取り合ってくれなかった。ばあさんはもともと心臓が弱かったし、しょうがないと。 それから1年ばかりなにもなく過ぎて、伯父もイボの花を偶然だと思うようになっていたころに、伯父の言う一生忘れられないことが起きた。

8月の暑い日。伯父が朝起きると、腕と言わず顔と言わず全身にイボが吹いていた。痛みは無かったが、顔や胸のゴワゴワした嫌な手触りに伯父は驚いて、両親に泣きついた。両親も驚いたが、取りあえず近所の町医者に来てもらうと、何かのかぶれだろうと言う。結局、塗り薬をもらって、伯父はそのまま自分の部屋に寝かしつけられた。学校も当然休まなければならなかった。両親は共働きだったので、まあ大丈夫だろうと、伯父は一人で家に残された。僕の母もまだ生まれていなかった頃だ。

伯父は布団の中で物凄い恐怖感に襲われたという。もしイボに花が咲いたら。全部に花が咲いたら。そう思った瞬間、目の前が真っ白になったそうだ。錯覚ではない。 その後に凄い音がして、屋根が崩れてきた。『あ、これか』と一瞬に思ったらしい。そこからの記憶がないと言うが、伯父は瓦礫から助け出されたとき、火傷と擦り傷で全身血まみれだったそうだ。イボに赤い花が咲いて。

1945年8月6日広島でのことである。その伯父も9年前に死んだ。生前よくみせてもらった背中や腹には、かすかに無数の痣が残っていた。