妖怪・怪異・八百万の神々

鰻取り中に出会った妖怪ケンムンの恩返し

知人の叔父が4~5年前、川に鰻を釣りに行き、竹筒で作った罠を8つ程仕掛けた。翌日、一匹も罠に掛かっておらず・・・翌々日、まだ一匹も掛かっておらず・・・ 三日後の夕方見に行くと、やはり一匹も掛かっておらず・・・諦めた叔父は日も暮れてきた頃、罠を回収しようと川に入って行くと、草むらから「おい」と呼び声。

振り向くと、草むらと木々の間に誰か立っている。暗くて良く見えないが、背は叔父より低い。「なんだ?何かようか?」と叔父。しばらく間があって、「煙草くれ」と草むらから声。叔父は胸ポケットに入れていた煙草と、その箱の中に入っていたライターを草むらに投げた。火が付き、「ふ~」と声。火が付いた一瞬明かりで顔が見えた。人ではない。毛が全身を覆い、手もかなり長い。これがケンムンかと悟った叔父は、しばらくケンムンを見つめたまま川の中で立っていた。
1分程しただろうか・・・「それ置いて行け」と、鰻の罠を指差すケンムン。

叔父はコクコクと二度頷き、黙って川から上がった。「住み難くなった」 そう呟くとケンムンは、藪に入っていった。「明日また来い」 その言葉を残してケンムンはその場から消えた。

翌日、昨日の事もあって少し怖かった。叔父は午前中丁度日が昇って明るい時間に川に来た。昨日ケンムンに投げた煙草がそのまま置いてあった。川に入り罠を見ると、筒に一匹鰻が入っている。

ケンムンのお陰かと笑いながら他の筒も回収すると、8つすべてに鰻が入っている。これは有難いと、叔父は煙草の箱を木の上に置いて、残りの煙草を置いて帰ってきたそうだ。

その日の夜、知人の家でたまたま酒を飲んでいた私を含めた4人は、鰻を持ってきた叔父の話と、その鰻を頂いたのである。