妖怪・怪異・八百万の神々

仏壇から漂う「匂い」の正体

オレは小さい頃から親戚中のつま弾き者だった。服装や髪型。見た目だけで人を判断するクソみたいな親戚連中。ずっと陰口叩かれ蔑まれてきた。けど母方の祖母だけはオレを真っ直ぐ見てくれて可愛がってくれた。オレは必然的におばあちゃん子だった。そんな祖母もオレが中3の頃に病気で亡くなった。生まれて初めて人の死に直面したショックと大事なおばあちゃんが居なくなったショックで、葬儀の時に人目も憚らず号泣したのを今でも覚えている。この話はそんな祖母の死から5年程経ったオレが20歳前後の頃の話だ。

当時ウチには納戸の部屋があり、使わなくなったが捨てられないようなモノが沢山しまわれていた。書類の入った段ボール箱が積まれ、古い家具などもあった。その中に仏壇があった。この仏壇は祖母が生前、毎日拝んでいたもの。親戚が捨てようとしたのをウチの母親が形見分けで貰ってきたものだった。しかしウチには元々仏壇があるのでこの仏壇は扉をガムテープで閉じられこうしてここに置かれている。その仏壇の向かいには鏡台があり、オレ達家族は出掛ける前にここで髪の手入れなどをしていた。

その日もいつものように出掛ける支度をしに納戸部屋へ入った。すると部屋中にいつもと違う匂いが漂っていた。嫌な匂いではない。オレは瞬時に思い出せなかったがどこかで嗅いだことのある懐かしい匂いだった。
『何の匂いだったかな?』
オレは疑問に思いつつも支度に追われ、鏡台の前に座りドライヤーで髪をセットし始めた…。しばらくすると…オレの背後にある仏壇の扉がス~っと開くのが鏡越しに映ってオレの目に入った。
『…あれ?』

ガムテープで硬く閉じられてたはずの仏壇の扉が自然に開いたんだ。 古いからガムテープの粘着が弱くなったのだろうと思い、オレは扉を閉め直して再び髪をいじり始めた。するとまた扉が開いた。その瞬間、オレはこの懐かしい匂いを思い出した。
『あ…おばあちゃんの匂いだ。』

時はちょうどお盆を迎えたばかりの暑い夏の日。祖母は仏壇を通ってオレ達の元へ帰ってきてくれたのだった。祖母は姿を見ることが出来ないオレにちゃんと存在を教えてくれたんだ。その後、オレは仏壇の扉を全開にして台所にあったありきたりのお菓子とお水を供えて…いっぱい話をしたのだった。