妖怪・怪異・八百万の神々

評判の良い霊媒師に亡くなった息子を呼び出してもらった

実家は俺の父親が継いでいるが、実は本来の長男が居た。俺の伯父に当たる訳だが、戦前に幼くして亡くなったのだ。今で言うインフルエンザに罹ったと聞いたように記憶しているが、ともあれ、貧しい我が家では医者にも診せられなかった。祖母にとっては、それが心残りでならなかったらしい。

戦後、昭和30年代らしいが、評判の良い降霊師がいたので自宅に呼び、伯父を呼び出してもらった。祖母としては一言詫びたかったそうだ。父が降りた途端、降霊師は土下座せんばかりになり、「親よりも早く死んだ自分はとんでもない親不孝者です」と言い、ひたすら泣き続けた。祖母は詫びるどころか言葉を失い絶句してしまったが、一緒に居た近所のおばあさんが降霊師に声を掛けた。
「お前さんが亡くなって、食い扶持が減ったから、他の兄弟は病気にもならずに大きくなれたんだよ」

降霊師は顔を上げ、祖母に本当にそうなのかと尋ねた。祖母は、子供を一人養子にでも出さないと食っていけないと本気で考えていたと打ち明け、申し訳ないと泣き出した。当時、祖母は二人の子持ち。その頃としては寧ろ子供が少ない状況だったが、貧しさはそれ以上だった。降霊師は、「兄弟が養子に出ないで済んだのなら、自分の命など惜しくありません」と告げ、祖母と抱き合っておいおい泣いていたそうだ。祖母は、伯父に対する後ろ暗さがこれで消えたと言っていた。

降霊師などというとインチキ臭いものだが、この話を聞いて以来、インチキだから悪いとか、そんな気はすっかり無くなってしまった。無論、この降霊師がインチキだったなどと言うつもりはない。