妖怪・怪異・八百万の神々

「主様が通りますので、ちょっと失礼」

山で草取りをしていると、背後から肩をトントンと叩かれ、「ぬし様が通りますので、ちょっと失礼」と何者かに話しかけられた。途端、草刈りのために屈んだ姿勢のまま、体が動かなくなったそうな。瞬きもできないまま、しばらく待っていると、爺様の背後を何か巨大なものが、その身をズルズルと引きずりながら通り過ぎていったそうだ。恐ろしくて生きた心地もしなかったが、ズルズルという音が聞こえなくなった辺りで、再び何者かに「ご迷惑をおかけしました」と耳元で囁かれ、その瞬間、爺様は盛大に小便を漏らして気絶したそうな。

気が付くと、時間はさほど経っておらず、日もまだ充分高かったが、夕暮れまで仕事をする気になれない爺様は、荷物を纏めて早々に家路に着いたそうだ。途中、今まで草刈りをしていた山肌をふり返って見たが、巨大な何かが通ったような痕跡は見つけることができなかったと言う。