妖怪・怪異・八百万の神々

【今思うと不可解】上野で見た傷痍軍人の話

私は20代後半ですが、10歳くらいまでの記憶はかなり断片的です。その記憶の断片の中に、不思議な場面があることに最近気が付きました。年齢はわかりませんが、相当幼い頃、母と上野駅の銀座線へと続く階段を降りていると、階段の中央に、壮年と見える2人の傷痍軍人さんがいました。1人は足が片方無く、階段に身を預けるように座っていました。もう1人はその傍らに立ち、赤いアコーディオンを弾いて歌っていました。当時の私は『傷痍軍人』という単語や存在を知りませんでしたが、その雰囲気に奇妙なものを感じ、母に「あの人たちは・・・?」と話し掛けたところ、「じろじろ見てはいけません」と言われました。記憶はここまでです。

時は経ち、相変わらずその階段をよく利用しているのですが、通る度にあの2人の兵隊さんを思い出しては、「ここもすっかり綺麗になったなー。ちょっと前までは終戦直後の雰囲気だったのに」などと思っていました。が、迂闊なことですがつい最近、おかしいぞと思い始めたのです。私が子どもの頃といえば、昭和50年代後半です。街に傷痍軍人の姿があったのは、昭和30年代くらいまでのようだし、あの兵隊さん達の年齢(30~40代)からしても合いません。ここに考えが至った時は本当にハッとしました。母が「じろじろ見てはいけません」と言ったのは、最近まであの辺に少なからずいた、ホームレスのおじさん達のことで、私が見ていた兵隊さんは、母には見えていなかったのでは・・・。

何かの撮影や大道芸??をしていたとも思えないし・・・彼らはこの世の人ではなかったのかな、と最近思います。しかし、何故かあまり恐ろしい感じはせず、あの場で会えて良かった気さえします。先人達の苦労を忘れてはいけないのだなぁ、と思いました。もし、私が見たのが普通に生きてる人達だったら、かなりハズカシイ・・・その時は忘れてください。