妖怪・怪異・八百万の神々

見えない何かに引っ張られていた黒い鳥

同僚の話。山里で道路工事をしていた時のこと。ギャアギャアとけたたましい鳴き声が聞こえた。烏だ。夕暮れの茜空の中、黒い影が必死に羽ばたいている。何を騒いでいるんだろうと見ているうち、おかしなことに気がついた。烏は何かから逃げるように力一杯羽を振っている。しかし、その身は少しも前進していないのだ。まるで見えない綱に引っ張られているかのように。

やがて力尽きたのか、烏は羽ばたきながら竹薮の中に引き込まれていった。ふっつりと鳴き声も聞こえなくなり、それきり辺りは静かになる。仕事が終わってから、その竹薮に足を運んでみた。黒い羽根が少し散らばっていたが、他には何も見えなかったという。