妖怪・怪異・八百万の神々

酒に弱いもののけ

大学時代、一人で山に登ったときのことです。秋の終わりごろに田舎の近くにある山に一泊の予定で行きました。夕方にキャンプ地に着き、テントを張ると焚き火をつくり、夕食の準備をしながら持参のウイスキーを飲んでいると、後ろの藪で「ガサッ、ガサッ」 と藪を分けるような音がしました。




「誰かきたのかな?」と思い、振り返ろうとしましたが、体が動きません。動くのは目だけで、声も出せませんでした。「え・・・金縛り?」 と思っていると、音は徐々に近くなり私の真後ろで立ち止まると「フーッ、フーッ」と匂いを嗅ぐような息をしていました。その何かは、私が手に持っているウイスキーに顔を寄せているような気配で、「酒に興味があるのかな?」と思っていると、スッとコップが取られ「ぐびっ」と飲んだようです。

「あ、飲んだ・・」と思った瞬間、「うええええ、げっ」と嘔吐しているような息遣いが聞こえ、「カラーン」とコップの落ちた音がしたと同時に金縛りが解けました。しばらく、呆然としていましたが。

コップを拾いに行くと、吐いた跡がありましたが、足跡や何かがいた形跡は全くありませんでした。「酒がダメな物の怪もいるんだなあ」と思いました。