妖怪・怪異・八百万の神々

ある日を境に

小学校に上がる前の記憶だと思う。

ある朝に目を覚ますと、隣で寝ている兄以外、家に人の気配がなかった。
家中を見て回るが誰もいない。
不安になって兄を起こそうと声をかけ、肩をゆするが目を覚まさない。
どんなに激しく揺り動かしても、ぐにゃり、ぐにゃり、とするばかりで死んでいるかのようだ。

私は怖くなって家の外に出た。雨が降っていて薄暗かった。
家の周りを泣きながら歩き回ったが、家の外にもまったく人の気配はなかった。
泣きながらまた家に帰り、ぐずぐずしていると、ふいに両親が現れた。

「どこにいってたの」と聞いても答えてくれず、
「お父さんはここにいるよ」「お母さんはここにいるよ」と答えるばかりである。
訳が分からなかったが、とにかく両親は戻ってきて私は安心した。
そこに兄が現れた。兄の顔を見た私は息を飲んだ。
そこにいた兄は兄ではなかった。
背格好は似ている。しかし、昨日までの兄、さっきまで隣で寝ていた兄と顔が全然違う。
目つきがきつい。鼻が細く高い。ほほがこけている。髪がぺたんとしている。

あの不思議な朝のようなことは、あれが最初で最後だった。
しかし兄自体は、それからもずっと兄とは思えない男の子のままだった。
兄が私に対して目を合わせようとせず、ひどく冷淡で意地悪になった。
それからは今に至るまで、兄弟仲は良くない。