妖怪・怪異・八百万の神々

その地に古くから住んでいた大蛇

20年前、山を切り開いた地にできた新興住宅地に引っ越した。
その住宅地に引っ越して来たのは私の家が一番最初で、周りにはまだ家は一軒もなく、夜は道路の街灯だけで真っ暗だった。
家は住宅地の端で、隣には整地されていない草むら。
そして草むらは山に続いていた。

その家に越してきてから暫く、家族皆が調子を崩した。
父は原因不明のできものが背中に出来、母はだるさで病院通いを続け、兄はやたらと車の事故を起こした。
私は不注意でやたらと切り傷やあざを身体中につくった。
が、そのような不調もいつかなくなり、家族そろって新しい家にも慣れた。




家が建って一年経った。
新興住宅地も随分家がたって賑やかになった頃、父が話してくれた。
家族が調子を崩していた頃、父は夢を見たそうだ。
大きな蛇の夢で、草むらからじっと父を睨んでいたらしい。
そして次の日、父は家の傍の草むらでその蛇を本当に見た。
蛇は胴の径が10センチもあろうかという大きさで、体調は2メートル程もある大きさだった。
父はなぜか申し訳ない思いになり、蛇に話し掛けたそうだ。
「この地に昔からいたのだろう。勝手に来て申し訳ない。でも、いまさらここを離れるわけにはいかない。この地を大切にするからゆずってくれないか。それと、俺の前にはどれだけ姿を現してくれてもいいが、家族は正直言ってその姿をみると怖がる。頼むから俺の前だけに姿を現してくれ」
蛇は暫く父を睨んでいたが、ゆっくりと山に向かっていったそうだ。
父はその日、寺に行き、酒を納めてきたらしい。
家の不調が改善されたのは、その日からだと父は言っていた。
そして父はその後、蛇を見ることはなかったそうだ。